■□◆ [ちょぃと斜め読み vol.014] 
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■□■ 01/12/12
                                   http://www1.plala.or.jp/agata
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 毎日、ニュースや新聞などをみていて「おや?」と思うことがよくありま
す。そんな、「おやっ??」という記事をとりあげて、時事問題から軟派な
ネタまで、幅広く、かつ鋭く読み解くコラム「ちょぃと斜め読み」。批判・
反論も大歓迎!
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■□■ シリーズ・「田中角栄の真実」批判
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■□■ [最終回・ロッキード裁判とは何だったのか]

 これまで5回にわたって、ロッキード裁判について延々と書いてきました。
しかしこれから先も自民党の旧田中派の面々が、過去を清算することもなく
権力者でいる限り、田中角栄を偉大な政治家と讃え、ロッキード裁判を「暗
黒裁判」[1] と批判するような政治家や評論家は後を絶たないことでしょう。

             ×  ×  ×

 私がこれほどまでにロッキード裁判にこだわるのは、この事件をめぐる顛
末こそ、トップに立つ者の責任をうやむやにしたまま、ひたすら下っ端の者
に責任をなすりつけたり、あるいは「全員にそれぞれ悪いところがあった」
などとして、責任の所在をうやむやにするという、日本の近・現代史のなか
で何度も繰り返されてきたパターンがそのままあらわれた事件だったからで
す(つい最近の機密費流用やプール金疑惑に対するうやむやな幕引きも、そ
の典型です)。確かにロッキード事件では、元総理大臣の田中角栄が逮捕さ
れ、裁判にかけられましたが、責任の追及はそこまで。田中がただの刑事被
告人となったあとも、旧田中派の政治家たちは彼のことを「オヤジ」「天才
政治家」と呼び、あるいは「一審判決で有罪とならない限り、彼の無罪を信
じる」と言い切りました。その後一審判決で有罪が出ると、今度は手のひら
を返すように「日本は三審制だ」「最高裁で有罪となるまで、無罪推定をさ
れるのは当然」などと開きなおる始末[2]。そこには、政治の腐敗を追及す
るという姿勢はまったく無いに等しいものでした。

 それでは社会の不正を厳しく追及するはずの言論界はどうかといえば、月
刊誌「諸君!」「文芸春秋」などが一斉にロッキード裁判の正当性を批判す
る論調をとり、「朝日ジャーナル」「世界」など一部を除き、社会不正の追
及などとはまったく逆の方向へと暴走。そのころ毎号のように田中角栄擁護
の詭弁・強弁を繰り返していた評論家たちは、当時の無責任な言論には頬ッ
かむりしたまま、今でもぬくぬくとセンセイ面をする始末です。たとえば渡
部昇一氏などはロッキード裁判についてロクに調べもせずにウソ・デタラメ
をならべて「ロッキード裁判は東京裁判以前の暗黒裁判だ!」などと毎号の
ように書きまくり、小室直樹氏に至ってはテレビの生放送中に田中逮捕を知
り、「田中角栄を逮捕した検察官を死刑にしろッ!」などと暴言を吐いてい
た(彼によると、田中角栄は100年に一度現れるかどうかの天才政治家で
あるのに対して、検察官など吐いて捨てるほどゴロゴロいるから、というこ
とらしい。あまりの論理の酷さに反論する気にもなれない)。そして、そん
な連中が当時の自分たちの無責任を棚にあげて、「痛快!憲法学」「人には
なぜ教育が必要なのか」「日本の正論」「国民の教育」などというのだから、
もはやブラックユーモアである。

 では最後の砦であることが期待されている司法はというと、これもまた心
もとない。確かに検察側は田中角栄逮捕にまでこぎつけたし、東京地裁も政
府からの有形無形の圧力[3]に屈せず田中有罪の一審判決を下したことなど、
初期の司法当局は評価されてしかるべきでしょう。しかしその後、高裁、最
高裁では有罪判決が政界に与える衝撃を考慮してか、どう考えても田中側の
裁判引き延ばし作戦に荷担しているとしか思えないことが多々ありました。
そしてとうとう逮捕から実に17年後の93年に、被疑者・田中の死亡によ
り最高裁は控訴棄却を決定。これはもう田中が死亡するのを待っていたとし
か考えられない[4]。

 つまりロッキード裁判の歴史とは、司法、立法、行政のみならず、第4の
権力であるはずの言論界でさえ、総理大臣の不正を十分に追及してこなかっ
た歴史だと言っても過言ではないでしょう。歴史に「もし」は禁物ですが、
もし仮に、田中が生存中に最高裁が有罪判決を下し、彼が刑務所に収監され
る場面がマスコミで報道されれば、日本は「法を犯したものは、たとえ最高
権力者であっても等しく罰せられる」という法治国家として正常に機能して
いることが誰の目にも明らかとなったことでしょう。しかしそんなことは遂
に実現することはありませんでした。そして今では、多くの人が心の底では
こう思っているのではないでしょうか-----どうせ権力を握った者はよほど
のことがない限り司法の手がおよぶことはない。汚職で捕まるヤツは運が悪
かっただけ。氷山の一角だ------。

             ×  ×  ×

 最高権力者が責任をとらない社会がこのままつづけば、「法のもとの平等」
という法治国家としての大原則がゆらぐだけではありません。そのような社
会では遅かれ早かれ、そこで生活する人々の間にモラルハザードを引き起こ
すでしょう。要するに「最高権力者すら責任をとらないのに、どうして俺が
とらなきゃいけないんだ!」という考えが少数意見でなくなってくる。たと
えば99年に神奈川県警で立て続けに不祥事が起きた後、スピード違反を取
り締まりにくくなった。あるいはバブル時代に無茶苦茶な経営をした銀行に
は国の税金が投入されるのに、その経営責任者の罪が不問に付されたままで
あることに多くの人々が納得していないこと。90年代に不良債権処理の舵
取りを大幅に誤り、経済を危機的な状態に追いやった張本人でありながら、
その責任を取ることなく今でも重要ポストに座りつづける柳澤金融担当大臣
や竹中経済財政政策担当大臣、などなど、具体例などいくらでも出てくる。

 歴史をさかのぼってみると、日本をこうした "無責任システム" に変えて
しまった大きな転換点は、やはり昭和天皇と戦争責任の問題を、戦争終結後
もウヤムヤにしたまま、とうとう50年以上もの間放置してきたことが挙げ
られます。いみじくも「敗北を抱きしめて」の著者、ジョン・ダワーは著書
のなかで以下のように述べるとおりです。

|その人の名において、二〇年にわたり帝国日本の外交・軍事政策が行われ
|てきた、まさにその人物が、あの戦争の開始や遂行に責任を問われないと
|したら、普通の人々について戦争責任をうんぬんしたり、普通の人間が自
|分自身の戦争責任を真剣に考えるべきだなどと、誰が思うであろうか。
|(「敗北を抱きしめて」上巻・14ページ)

昭和天皇の戦争責任については書きたいことが山のようにありますが、ジョ
ン・ダワーの「敗北を抱きしめて」と、来年邦訳が出版予定の Herbert B. 
Pix による "Hirohito and The Making of Modern Japan" の2冊によって、
もはやこの問題は勝負あったというべきでしょう[5]。ダワー氏の著書によ
り、アメリカの占領政策を円滑におこなう目的でGHQが天皇の戦争責任と
いう問題をいかにして回避したか、その詳細が明らかとなっており(特に邦
訳下巻)、またPix氏の著書では昭和天皇が先の大戦中に果たした役割が詳
細に記録されているからです(特に第3章)[6]。

             ×  ×  ×

 忘却に対して愚直なまでに常に対抗することと、不正に対する怒りを持続
させること。これこそが未来を切り開くために大切なことだと、私は信じま
す。ロッキード裁判について長々と述べてきたこの連載を通じて、こうした
気持ちを皆さんと少しでも共有できれば幸いです。

 支持率が10%を切ったとき、それでも「森総理を全力で支えていく」
と公然と語っていたのは、ほかでもない小泉現首相であることを、忘れてい
ませんか?

【筆者注】

[1] 「萬犬虚ろに吠える」渡部昇一著/PHP文庫より
[2] 以上は「田中支配とその崩壊」「ロッキード裁判とその時代」などより
  抜粋
[3] 秦野章議員が最高裁長官の代理を2度にわたって国会で恫喝したことや、
  根来法相がロッキード裁判を潰すための指揮権発動をちらつかせたこと
  など。
[4] 実際、事実関係の争いは一審で終結しており、弁護側から新しいアリバ
  イ等が提出されることもなかったため、当時の司法関係者の間では、い
  くら長くても80年代後半までには最高裁判決が出るものと考えられて
  いた。
[5] 邦訳は来年夏に講談社より出版予定ですが、まともな翻訳書となるかど
  うかについては正直に言ってかなり疑問です。そもそも翻訳すらされな
  いのではないかとも思います。というのも、かつての戦争に熱心に協力
  していた当時最大の出版社こそ、ほかでもない講談社であり、なおかつ
  当時戦争に荷担していたことについては、戦後の権力者たち同様、うや
  むやにしたままそしらぬ顔をしているからです。また、本書の邦題が
  「昭和天皇」という、原題とはほど遠い、まったくあたりさわりのない
  ものになっていることも気になります。
[6] このほかにも、昭和天皇と戦争責任をめぐる問題についてはさまざまな
  本が参考になります。基本的なところでは、歴史的事実の概要を知るう
  えで「昭和天皇の終戦史」(吉田裕著/岩波新書)は非常にコンパクト
  にまとめられている良書と言えるでしょう。また、「日本の戦争責任」
  (若槻泰雄著/小学館)は戦時中に発行された膨大な量の資料を駆使し
  て、あの時代がいかにひどいものだったかを知ることができるでしょう。
  皇軍と呼ばれた日本軍が犯した、具体的な戦争犯罪の記録としては、
  「証言・731部隊の真相」(ハル・ゴールド著/廣済堂出版)が、731部
  隊の元隊員たちの証言を実名のまま記録した、貴重な資料です。また、
  当時のイデオロギーを体系的に分析したものしては、教育勅語や軍人勅
  諭に込められた思想を読み解く「天皇と日本の近代」(八木公生/講談
  社現代新書)がおすすめです。

【参考文献】
◇田中角栄関係
「田中角栄研究全記録(全2巻)」
   立花隆著/講談社文庫
「ロッキード裁判とその時代(全4巻)」
   立花隆著/朝日文庫
「論駁(全3巻)」
   立花隆著/朝日新聞社
「裁かれる首相の犯罪(全16巻)」
   東京新聞特別報道部編/東京新聞出版局
「田中支配とその崩壊」
   朝日新聞政治部/朝日新聞社

◇法律関係
「刑事訴訟法入門・第3版」
   藤木英雄ほか著/有斐閣双書
「刑事訴訟法」
   上口祐ほか著/有斐閣Sシリーズ

◇昭和天皇と戦争責任関係
「敗北を抱きしめて(全2巻)」
   ジョン・ダワー著/岩波書店
「昭和天皇の終戦史」
   吉田祐著/岩波新書
「日本の戦争責任(全2巻)」
   若槻泰雄著/小学館
「天皇と日本の近代(全2巻)」
   八木公生著/講談社新書
「「世界」主要論文選」
   井出孫六ほか編/岩波書店
「証言・731部隊の真相」
   ハル・ゴールド著/廣済堂出版
「Hirohito and The Making of Modern Japan」
   Herbert P. Bix, Perennial(未邦訳)

◇その他
「誰が日本経済を腐らせたか」
   金子勝・佐高信/毎日新聞社
「外務省激震・ドキュメント機密費」
   読売新聞社会部/中公新書ラクレ
「巨悪 vs 言論」
   立花隆著/文芸春秋
「イトマン・住銀事件」
   日本経済新聞社編/日本経済新聞社
「悪党と政治屋・緊急ドキュメントKSD」
   週間朝日特別取材班/朝日新聞社
「検証バブル 犯意なき過ち」
   日本経済新聞社編/日本経済新聞社
                      ...etc
【参考HP】

 岩見隆夫氏のコラム
   http://www.mainichi.co.jp/eye/iwami/sunday/2000/1008.html

 「田中角栄の真実」の紹介
   http://www.koubundou.co.jp/books/pages/kbn7618.html

 最高裁判所HP
   http://www.courts.go.jp/

 国会議事録検索システム
   http://kokkai.ndl.go.jp/

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■□■ [編集後記]

 「世界」の今月号に、「相対化の時代」(岩波新書)の著者、坂本義和氏
の「テロと「文明」の政治学」と題する論文が載っていました。「テロ否定
では一致しても、誰の視点で反対か、という問題が残る」と論じる彼の分析
の鮮やかさに、ひさしぶりに目を見張る思いがしました。

 ところでアフガニスタンに対する空爆については、日本の報道ではどの局
もほとんど似たりよったりの映像を流しているので、もしかするとホントに
映像が少ないのでは?、と思っていたのですが、実はTVで流れないだけで、
映像や写真はいくらでもありました。というよりも、TVでは流せない、と
言ったほうが正確かもしれません。

 そこに写っていたのは、「正義の戦争」の裏側で起こっている不正義の数々
でした。アメリカの空爆で家族を失った人々、大けがをした人々、そして空
爆跡から掘り出される死体の数々・・・。改めて情報操作の恐ろしさを感じ
ずにはいられませんでした。

アルジャジーラTV
  http://www.aljazeera.net/

空爆による被害
  http://203.174.72.111/yasudian/victim.html

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 発行時期 :  月刊(毎月第2水曜)
 発行者  :  あがた あきら
 発行ID  :  まぐまぐ(0000054104)
 配信     :  まぐまぐ http://www.magmag.co.jp/ 
 HP    :  http://www1.plala.or.jp/agata
 e-mail  :  aga@blue.plala.or.jp
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