■□◆ [ちょぃと斜め読み vol.013] 
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■□■ 01/11/14
                                   http://www1.plala.or.jp/agata
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 毎日、ニュースや新聞などをみていて「おや?」と思うことがよくありま
す。そんな、「おやっ??」という記事をとりあげて、時事問題から軟派な
ネタまで、幅広く、かつ鋭く読み解くコラム「ちょぃと斜め読み」。批判・
反論も大歓迎!
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■□■ シリーズ・「田中角栄の真実」批判
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■□■ [(5) 清水ノートというアリバイ]

 弘文堂から出版されている「田中角栄の真実」という本は、弁護士が書い
たものであるにもかかわらず、刑事訴訟法に関する初歩的なミスや、意図的
としか思えないような事実の歪曲が多数含まれている、読むに耐えないよう
な "トンデモ本" であることは、これまでの指摘から明らかだと思う。しか
し上智大学教授の渡部昇一氏や評論家の小室直樹氏など、いまだに田中角栄
無罪論を唱えるセンセイたちの多くが「田中角栄無罪論」の最後の砦として
いる清水ノートというアリバイについて、最後に触れないわけにはいかない。
そこで今回は、このシリーズの締めくくりとして、この清水ノートというア
リバイが、いかにあやふやで信用するに足らないものであるかを検証してみ
る。そしてまた、清水ノートを検証することによって、これまで4回にわた
って、そのデタラメぶりを指摘してきた「田中角栄の真実」という本に、最
後のとどめを刺すことにする。

 清水ノートとは、田中角栄の秘書(肩書きはすべて当時)であった榎本氏
の運転手をつとめていた清水孝士氏が大学ノートに書き留めていた運転日誌
のことであり、1981年4月15日、丸紅ルート第127回公判で弁護側よりアリバ
イとして提示された。
 なぜそれが重要なアリバイ証拠として注目されるのかというと、検察側の
主張では、丸紅専務の伊藤が、ロッキード社東京事務所代表のクラッターの
もとに米国の本社から送られてきた5億円を受け取り、田中の秘書である榎
本に、5億円の現金の入った段ボール箱を4回に分けて渡し、たことになっ
ているからである。ところが清水ノートには、4回の現金授受があったとさ
れる時間と場所に、清水氏の運転する車が全く異なる場所にあったことを示
していたのである。
 弁護側のアリバイとは、こうである。1)清水氏は几帳面な性格であり、清
水ノートの時間および場所の記載は正確である。2)榎本秘書が移動するとき
には、よほどの事情がないかぎり清水運転手の車を使う。3)清水運転手は榎
本秘書と常に行動を共にしており、榎本秘書を乗せずに運転するということ
はない。以上の3点はすべて事実であり、検察側の主張するような現金の受
け渡しは物理的に不可能である、というのである。
 もし以上の3点がすべて本当であれば、ロッキード事件の構造を根底から
覆す重要なアリバイ証拠である。木村喜助氏もこのアリバイを高く評価し、
「田中角栄の真実」のなかでも

|清水ノート・手帳、関係者の証言により、榎本さんが四回の授受時刻にそ
|れぞれ別の場所にいたことは明らかである。(188ページ)

と書き、以下延々と清水ノートの内容を紹介している。
 しかし残念ながら、清水ノートが提示されたのと同じ、第127回公判で、
早くも検察側の反論により、その信憑性がぐらつきはじめるのである。以下
にしめすのは、この日の公判での堀田検事と清水証人のやりとりである。

「一度、上中里の榎本さんのところに行かれたら、本人が病院に行かれたと
 いうことがありましたね」
「はい」
「記載はどうなりますか?」
「上中里から病院名か地名を書きます」
「そうすると榎本さんが(車に)乗っていなくても、記載されることになり
 ますね」
「そういうことでございます」
「(4回目の現金授受がおこなわれたとされる)48年8月10日の記載で
 すが、時間を書き直したことは?」
「書いた後、すぐ書き直したことがあるかもしれませんが・・・」
「官邸から砂防会館、ホテルオータニ、院内、官邸の出発時間である12時
 05分のゼロは黒くなっていますが」
「あとから書いたのかもしれません」
「あとからというと?」
「少したってからかもしれません」
「榎本さんが乗らずに、あなたが車だけで行ったという可能性も否定しきれ
 ないんじゃありませんか?」
「・・・。(30秒ほど考え込む)」
「お答えがないが、具体的な記憶はないんですね」
「・・・そうですね」
(以上、東京新聞特別報道部編「裁かれる首相の犯罪・第10巻」より)

 木村氏はこの第127回公判にも出廷しており、清水ノートの信憑性がくず
れてゆくこれらのやりとりを目の前でご覧になったはずである。なのになぜ、
「清水ノート・手帳、関係者の証言により、榎本さんが四回の授受時刻にそ
れぞれ別の場所にいたことは明らかである」などと平然として書けるのか、
理解に苦しむ。もしや木村氏は、先に引用した「裁かれる首相の犯罪」(全
15巻)が今では絶版になっているのをいいことに、「ちょっとくらいウソ
を書いてもバレないだろう」とタカをくくっているのではないだろうか。
 さらに言えば、この第127回公判以降、検察側は清水ノートによるアリバ
イを崩すために、100人を越える関係者から事情聴取をおこない、ついに
10月26日の第146回公判での榎本秘書の前妻による衝撃的な証言[1]により、
アリバイは完全に崩れ去るのである(ちなみにこの公判にも、木村氏は出廷
している)。

               ×  ×  ×

 一般的に刑事裁判では、犯罪事実の立証は検察側がしなければならないが、
アリバイの立証責任は、以下のように、逆に被告・弁護側にあるのである。

|積極的に1個の社会的事件たる事実、例えば被告人が犯行時刻に犯行場所
|以外の特定の場所にいた事実を立証するには厳格な証明を必要とするとい
|うべきであろう。特に、訴因に掲げられた事実が検察官の主張とは異なっ
|た様相の事実であることを積極的に立証する場合はそうでなければならな
|い。(「刑事訴訟法入門・第3版」・有斐閣双書 255ページ)

 この基準からすると、清水ノートによるアリバイは、お世辞にも「厳格な
証明」とは言えない。清水ノートによるアリバイが崩れ去るそのプロセスを、
木村氏は弁護士として法廷で目撃したはずである。にもかかわらず、彼は次
のように書く。

|ところが判決は、すでに検事調書で金銭授受の心証はとったから、弁護人
|のアリバイ立証はこれを覆すに足るものでなければだめだということで、
|実質上無罪の挙証責任を被告側に負わせた。これは無罪の推定を前提とす
|る刑事訴訟ではあり得ないやり方である。(188ページ)

 木村氏はもういちど、ロッキード裁判の裁判記録を読み返すだけでなく、
法律の勉強も一からやりなおすべきだろう。


【筆者注】
[1] 榎本が彼女に対して、伊藤から金を受け取ったことについて相談をもち
  かけたことや、証拠書類を消却処分したことなどを、彼女は詳しく証言
  した。証言の詳しい内容については、「ロッキード裁判とその時代・第
  3巻」(立花隆著/朝日文庫)や、「裁かれる首相の犯罪・第11巻」
  (東京新聞特別報道部編/東京新聞出版局)など。

【シリーズ・「田中角栄の真実」批判】
 今後の予定
  (6) ロッキード裁判とは何だったのか

【参考HP】

 岩見隆夫氏のコラム
   http://www.mainichi.co.jp/eye/iwami/sunday/2000/1008.html

 「田中角栄の真実」の紹介
   http://www.koubundou.co.jp/books/pages/kbn7618.html

 最高裁判所HP
   http://www.courts.go.jp/

 国会議事録検索システム
   http://kokkai.ndl.go.jp/

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■□■ [編集後記]

 書きたいテーマは山ほどあるのに、それを書くだけの時間がとれず、とう
とう2ヶ月以上もお休みしてしまいました。メルマガを楽しみに待っていて
くださったみなさんには、ご迷惑をおかけしました。。。
 今回ひさしぶりにメルマガを発行いたしました。しかし仕事の関係上、忙
しさはあいかわらずです。そこで勝手ながら、次回14号以降は、このメル
マガの発行は月1回(月刊)とさせて頂きたいと思います。

 さて、ここでちょっと宣伝!
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ールマガジンにも、執筆者の一人としてときどき拙文を投稿しています。ア
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