■□◆ [ちょぃと斜め読み vol.011] 
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■□■ 01/6/27
             http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/7807/
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 毎日、ニュースや新聞などをみていて「おや?」と思うことがよくあり
ます。そんな、「おやっ??」という記事をとりあげて、時事問題から軟
派なネタまで、幅広く、かつ鋭く読み解くコラム「ちょぃと斜め読み」。
批判・反論も大歓迎!
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■□■ シリーズ・「田中角栄の真実」批判
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■□■ [(4) 嘱託尋問調書をめぐる問題・2]

 前回は嘱託尋問調書の証拠能力について述べたが、引き続き嘱託尋問調
書をめぐる問題についてふれることにする。

 嘱託尋問調書について、「田中角栄の真実」のなかで喜助氏は、さらに
こう述べている。
 
|裁判でもっとも大切なものは公平であり、それによる真実の追究である。
|(中略)弁護人はコーチャンらの反対尋問を一、二審を通じて請求した。
|裁判所は検察官を通じて紹介し、「コーチャンは来日して証言するつも
|りはないと言っている」という理由でこの請求を却下した。そこで弁護
|人は「ならば検察官がやったのと同じように米国の裁判所に嘱託尋問し
|て反対尋問をさせてもらいたい」と主張したのだが、それも受け入れら
|れなかった。(中略)被告人の権利を行使させるため、最善の力を尽く
|すという公平さに欠けるところがこの裁判にはあったと思う。
|(20ページ)

 重要証人であるコーチャンやクラッターに対して、弁護側の反対尋問請
求を裁判所が却下したという点は、木村氏のみならず、ロッキード裁判批
判派の人たちの多くが「重大な問題」として強く批判するポイントである。
さすがに木村氏はソフトな表現でこれを批判しているが、たとえばこのメ
ルマガで以前にも取り上げた渡部昇一氏などは、もっとオドロオドロしい。

|「田中角栄被告はただの一度も最重要証人に反対尋問する機会を与えら
|れることなく有罪を宣せられたのである」
|それを聞いた文明国の人は、百人が百人、千人が千人、万人が万人、一
|人残らず日本はそんな野蛮国であったのか、と仰天することであろう
|(渡部昇一「萬犬虚に吠える」・87ページ)

 表現こそ違うものの、木村氏・渡部氏ともに、主張の核心は同じである。
つまり、百歩譲って嘱託尋問調書の証拠能力を認めたとしても、それに対
する田中側からの反対尋問を裁判所が拒絶したのは、重大な誤りではない
か、というのである。

 念のために、ここで憲法37条の一部を引用する。

|(憲法37条)
|すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所に迅速な公開裁判
|を受ける権利を有する。刑事被告人は、すべての証人に対して審問する
|機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人
|を求める権利を有する。

              * * *

 さて、それでは実際のロッキード裁判は、木村氏の言うように、公平さ
に欠ける裁判であったのだろうか。調べてみると、確かに木村氏の言うよ
うに、コーチャン・クラッター両氏に対する弁護側からの反対尋問請求は
裁判所によって拒否されている。しかし、ここでも木村氏は、重要な事実
を意図的に隠すことによって読者をミスリードしている。それは、反対尋
問の請求が、裁判のプロセス全体のなかのどのようなタイミングでおこな
われたか、である。

 第68回公判(79.3.28)で、嘱託尋問調書の証拠調べが終了したところ
で、田中弁護団の本田弁護人が「嘱託尋問調書の証拠調べの結果に関する
意見書」を読み上げたあと、最後に田中弁護団主任の新関弁護人が、「コ
ーチャン、クラッター両氏への反対尋問の嘱託請求は今週中には出すので、
次の過程への審理は、一応こうした問題に決着をつけてからにしてほしい」
と要望した。ところが次の週の第69回公判になっても、弁護側からの請
求は出てこない。

 ようやく請求が出されるのは、なんと3年後の第153回公判(82.2.10)
なのである。「田中・榎本側から証人申請がでています」という岡田裁判
長の声で、本田弁護人が立ち上がり、「コーチャン、クラッター両氏の嘱
託尋問調書に対する反対尋問をしたいので、両氏を証人申請いたします。
(中略)もし本人たちがどうしても出廷をがえんじ得なければ、裁判所が
米国に出張され、ロサンゼルスで出張尋問を行っていただきたい。それも
できないのであれば、検察官が行ったと同様に、裁判所が両名に対して嘱
託尋問をしていただきたいと存じます」と述べたのである。

 81年に検察側立証が終了し、第152回公判(82.12.16)での被告人
質問の終了により、事実審理は終結していたにもかかわらず、である。こ
れが田中側による、なりふりかまわない裁判引き延ばし作戦であることは、
誰の目にも明らかであった。実際、その年の1月、田中角栄の秘書である
早坂氏は講演で「来年(83年)6月に衆参ダブル選挙をおこない、その後
で判決を受けたい」と述べている。つまり選挙を勝ち抜くことで田中派が
自民党を支配し、田中の権力基盤を確かなものにした上で、判決を受けよ
うということである。そうすることで、判決によるダメージを最小限にく
い止め、判決後も田中支配を続けるというのが田中陣営の戦略だった。

 本田弁護人からの請求に対し、すかさず堀田検事が、1) 両氏がいずれ
も日本に来る意志がないことは既に当法廷でも確認済みであること、
2) もし反対尋問をするなら、米国に依頼するしかないが、その場合、日
本側の担当者が直接尋問することは不可能であり、嘱託尋問しかあり得
ないこと、3) いずれにせよ、両氏が刑事面責を要求することは明らかで
あることを述べた上で、「さらに、弁護側の(要求している)尋問事項に
は、嘱託尋問調書の範囲を逸脱している点があります。これらの点は、宣
明書による面責の範囲をはみ出すわけです。従って、これらの部分に関し
ては新たに(面責の)宣明がなされなければ、供述を拒否されるはず。弁
護側に注意を喚起するものであります(中略)既に検察側が嘱託尋問の際
に請求して裁判所から却下された事項、あるいは検察側が不必要と判断し
た事項が含まれています。裁判所は、嘱託尋問調書全体をお読みになった
上でご判断いただきたい」と明快に述べると、本田弁護人は「いずれ書面
で私どもの意見を・・・」と口ごもり、この日は終わった。

 ところが田中弁護団は、またしても書面を出し渋り、幾度となく裁判長
から注意を受けることになる。ようやく反証計画書を提出したのが第15
7回公判(82.3.17)であった。しかし具体的に誰を証人として呼び、そ
れによって何を証明したいのか、といった点が全く不明であったため、た
まりかねた裁判長が「裁判所としては、十分に必要性があると判断した証
人についてのみ尋問するという原則に基づいて審理を進めます」と弁護団
に言いわたす一幕もあった。そしてその翌日、コーチャン・クラッター両
氏に対する反対尋問請求は「必要なし」として裁判所から却下されたので
ある。

 そもそも、反対尋問というのは主尋問の直後におこなうものであり、本
来であれば79年の時点で請求されるべきものである。それをおこなわな
かったのはなぜなのか、それをこそ木村氏は説明すべきだろう。また、な
ぜ3年も経過した時点で、突然反対尋問を請求しだしたのか、つまりもし
本気で反対尋問をしたかったのであれば、なぜ請求までに3年もの時間が
必要だったのか、についても説明すべきである。

 こうした裁判の経緯について触れることなしに、「公平さに欠けるとこ
ろがこの裁判にはあった」などと主張するのは、もうやめにしてもらいた
い。


【シリーズ・「田中角栄の真実」批判】
 今後の予定
  (5) 清水ノートというアリバイ
  (6) ロッキード裁判とは何だったのか

【参考HP】

 岩見隆夫氏のコラム
   http://www.mainichi.co.jp/eye/iwami/sunday/2000/1008.html

 「田中角栄の真実」の紹介
   http://www.koubundou.co.jp/books/pages/kbn7618.html

 最高裁判所HP
   http://www.courts.go.jp/

 国会議事録検索システム
   http://kokkai.ndl.go.jp/

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■□■ [編集後記]

 つい数年前、惜しくも亡くなったパキスタン伝統音楽の大御所、 Nusrat
 Fateh Ali Khan の遺作CD2枚組が発売されていたので、思わず買ってし
まった。タブラーの、耳に心地よい乾いた音色に、迫力のある Nusrat の声
声、声!! 好きだなぁ、こういう人間味があって、土のにおいがしそうな
くらい、地に足のついた音楽!

 軽すぎる歌声と電子音に毛の生えたようなイビツな音をミックスしただけ
の "ヒット曲" ばかりがもてはやされるなかで、たまにはこういうアジア・
アラビア方面の音楽を聴いてみるのも、なかなかいいもんです。

 とりあえず、このCDがあるだけで、夏バテも吹っ飛びそうだ!

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 発行時期 :  隔週(毎月第2・第4水曜日)
 発行者  :  あがた あきら
 発行ID  :  まぐまぐ(0000054104)
 配信     :  まぐまぐ http://www.magmag.co.jp/ 
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