■□◆ [ちょぃと斜め読み vol.006] 
□ □
■□■ 01/3/14
             http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/7807/
==================================================================
 毎日、ニュースや新聞などをみていて「おや?」と思うことがよくあり
ます。そんな、「おやっ??」という記事をとりあげて、時事問題から軟
派なネタまで、幅広く、かつ鋭く読み解くコラム「ちょぃと斜め読み」。
批判・反論も大歓迎!
==================================================================

■□■ シリーズ・「田中角栄の真実」批判
□ □
■□■ [(2) 総理大臣の職務権限について]

 ロッキード裁判では、内閣総理大臣の職務権限という、非常に大きくか
つ多岐にわたるものが争点となったために、裁判においても長期にわたっ
て非常に激しく争われた。

 その前にまず、ロッキード事件当時の刑法の規定を原文のまま引用して
おこう。

|刑法197条(1)
|公務員又ハ仲裁人其職務ニ関シ賄賂ヲ収受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束シ
|タルトキハ三年以上ノ懲役ニ処ス請託ヲ受ケタル場合ニ於テハ五年以下
|ノ懲役ニ処ス[1]

 職務権限をめぐる法廷論争は、結局のところ総理大臣が全日空にロ社の
エアバスを購入するよう働きかける行為が、この条文の「其職務ニ関シ」
という一語に含まれるのか否か、という点に尽きる。

 この一語については「職務自体ナルコトヲ要セス其職務ニ関渉スルモノ
ナルヲ以テ足ル」とする大審院判決(1913 年) があり、それ以降この解釈
が一般的なものとなっている。分かりやすく言うと、「其職務ニ関シ」と
いうのは、(A) 法令で定められた職務行為、(B) 職務に密接に関連する行
為の2 つを含む概念であり、前者が職務権限に直接関係する行為、後者が
密接関連行為(又は準職務行為)と呼ばれている。そして収賄罪は(A)(B)
のいずれか一つが認定されれば、成立する。

 話はそれるが、政治家の収賄疑惑がさわがれると「職務権限がないなら、
いくらカネをもらっても収賄罪にはならない」などという議論が必ず出て
くるが、これは誤りである。つまり職務権限がなくとも、それが「職務に
密接に関連する行為」であれば、収賄罪が成立するからである。

 では具体的に、総理大臣が全日空にロ社のエアバスを購入するよう働き
かける行為が(A) もしくは(B) に含まれるのかどうか、裁判所はどのよう
な判断をしたのだのだろうか。少し長くなるが、第一審判決要旨の一部を
引用してみる。

|全日空に対し、L 一〇一一型機を選定購入せしめるべく行政指導せよと
|運輸大臣を指揮するような行為は内閣総理大臣たる被告人田中の職務権
|限に属する行為であり、その自ら全日空に対し右行政指導と同じ内容の
|働きかけをするような行為は、右の職務と密接な関係を有する準職務行
|為であるというべく、結局、本件五億円は、被告人田中の職務に関し供
|与された賄賂であって、被告人田中は、その職務に関する行為をなすべ
|きことの依頼を承諾し、すなわち「請託」をうけてこれを収受したもの
|ということができる。(地裁判決理由要旨・第五章四節より抜粋)

 少々わかりにくい文章だが、簡単にまとめると、

(1) 全日空が特定機種を選定すべく運輸大臣を指揮する行為
   → 職務権限に属する行為
(2) 総理大臣が全日空に対して自ら働きかける行為
   → 準職務行為(密接関連行為)

となり、(A)(B)の両方が認定されている。

 ところが「田中角栄の真実」では、この点を批判する第6 章のタイトル
として

|内閣総理大臣の職務権限とはいかなるものなのか
|最高裁の判決は、田中総理は全日空の新機種選定に介入する職務権限を持
|っていたと認定しているが、誤りである(107ページ)

と掲げていて、あたかも上記(1) の認定をくつがえせばロ裁判の判決をひ
っくり返せるかのように書かれているのだが、実際には(2) についても論
駁しなければ十分ではない。

 しかも悪いことに、(1) についての木村氏の批判自体が、またしてもロ
裁判を担当した弁護士が書いたとは思えないような、「お粗末」な批判な
のである。たとえば運輸大臣を指揮する行為は内閣法6 条に規定する閣議
にかけて決定した方針なくして、総理大臣が各省大臣を指揮監督すること
はできないという規定をもちだして、次に引用する最高裁判決に噛みつく
のである。

|内閣総理大臣の地位・権限に照らすと、同大臣は、閣議にかけて決定し
|た方針がない場合でも、少なくとも内閣の明示の意志に反しない限り、
|行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよ
|う指導、助言などの指示を与える権限を有すると解する(最高裁判決)

 つまりこの最高裁判決では、内閣法6条の規定に反するというのである。
そして

|「指示を与える権限」(以下仮に指示権という)というあいまいな概念
|を創設し、これにより職務権限ありとして一、二審の有罪判決を支持し
|たのである。(116ページ)

|特に注目すべきは、(筆者注:個別意見のなかで)草場裁判長と中島、
|三好、高橋の四裁判官の意見が一、二審判決を否定して、
|「本件では運輸大臣には全日空の新機種選定に介入する権限はなく、田
|中総理にも運輸大臣を指揮監督する権限はなかった」
|とはっきり述べていることである。(114ページ)

などと書くのである。

 これではまるで、最高裁が田中角栄を有罪にするために、法をネジ曲げ
て「指示権」というあいまいな概念を創設したけれど、少数の "良心のあ
る" 裁判官はこうしたやり方に納得できず、個別意見で職務権限を否定し
た、といった書き方である。しかしこれは事実ではない。その理由は、木
村氏が引用した裁判官4 名による個別意見にある。木村氏がその一部しか
引用していない個別意見は、実は次のようにつづくのである。

|しかし、運輸大臣が右勧奨をした場合には、前記のような特殊例外的な
|事情が存在しないときであっても、その勧奨は民間航空会社に対しその
|職務権限の範囲内でされる行政指導と同等の事実上の影響力を与えるも
|のであって、運輸大臣の職務と密接な関係にある行為といえる。そうす
|ると、内閣総理大臣が運輸大臣に対し右勧奨をするよう指示を与える行
|為は、内閣総理大臣がその指示権能に基づき本来有する職務と密接な関
|係にある行為といえる。(裁判官4名による個別意見より)

 つまりこの個別意見は、最高裁判決が全日空が特定機種を選定すべく運
輸大臣を指揮する行為を「(A) 職務権限に属する行為」としたことに対し
て、そうではなく、これは「(B) 密接関連行為」ではないか、と言ってい
るのである。いずれにしてもこれは有罪判決を支持するものであり、木村
氏の言うような「一、二審判決を否定」したり「弁護人の主張が認められ
た」というようなものでは全くない。

 はっきり言って、このように判決文の一部だけを都合のいいように引用
して、自分の主張を述べるようなやり方は、フェアではない。もしかして
木村氏は、ロッキード事件が世間から忘れられつつあるのをいいことに、
「少しくらいウソを書いてもバレないだろう」とタカをくくっているので
はないだろうか。

【シリーズ・「田中角栄の真実」批判】
 今後の予定
  (3) 嘱託尋問調書の証拠能力
  (4) 清水ノートというアリバイ
  (5) ロッキード裁判とは何だったのか

【筆者注】

[1] この規定はその後1980年4月に改正され、法定刑がそれぞれ2年ずつ引
  き上げられた。

【参考HP】

 岩見隆夫氏のコラム
   http://www.mainichi.co.jp/eye/iwami/sunday/2000/1008.html

 「田中角栄の真実」の紹介
   http://www.koubundou.co.jp/books/pages/kbn7618.html

 最高裁判所HP
   http://www.courts.go.jp/

 国会議事録検索システム
   http://kokkai.ndl.go.jp/

==================================================================

 先日発行しました <<ちょぃと斜め読み vol.005>> において、不注意に
よる誤字・脱字がありました。申し訳ありませんが、以下の3ヶ所の訂正
をお願いいたします。

【90行目】
 誤)内定捜査
 正)内偵捜査

【119行目】
 誤)追求
 正)追及

【183行目】
 誤)?ページ
 正)ivページ

==================================================================

■□◆
□ □
■□■ [編集後記]

 今回もまた、「田中角栄の真実」批判だけで終わってしまいました・・・。

==================================================================
 発行時期 :  隔週(毎月第2・第4水曜日)
 発行者  :  あがた あきら
 発行ID  :  まぐまぐ(0000054104)
 配信     :  まぐまぐ http://www.magmag.co.jp/ 
 HP    :  http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/7807/
 e-mail  :  akira-a@geocities.co.jp
 登録・解除:  上記アドレスで可能(配信先変更は登録解除後、新アド
         レスで再登録してください)

 ★感想、質問、意見、苦情…お待ちしています!
                                           akira-a@geocities.co.jp
==================================================================