■□◆ [ちょぃと斜め読み vol.005] 
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■□■ 01/2/28
             http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/7807/
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 毎日、ニュースや新聞などをみていて「おや?」と思うことがよくあり
ます。そんな、「おやっ??」という記事をとりあげて、時事問題から軟
派なネタまで、幅広く、かつ鋭く読み解くコラム「ちょぃと斜め読み」。
批判・反論も大歓迎!
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■□■ シリーズ・「田中角栄の真実」批判
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■□■ [(1) 外為法違反と別件逮捕論]

 これまでに、このメールマガジンでも何度か触れたことがあるが、去年
の9 月、「田中角栄の真実・弁護人から見たロッキード事件」なる本が出
版された。著者はロッキード裁判の第一審から最高裁まで田中角栄元総理
の弁護士を勤めた木村喜助氏。この本、出版されてからまだ半年もたって
いないのに、早くも11刷という好調な売れ行きである。

 実を言うと私は大学時代に(といっても数年前のことだが・・・)、一
般教養で受けた政治学の授業で、レポートのための調査の一環としてロッ
キード事件についての当時の新聞記事を調べたことがあった。そんなこと
から、去年この本を店でみたときには何気なくパラパラと立ち読みしてみ
た。ところがザッと目を通してみると、これがロッキード裁判の担当弁護
士が書いたとは思えないような、初歩的なデタラメが何ヶ所も目について、
ついに買う気もなくなってしまった。

 このとき私は「また "トンデモ本" が出てきたな」くらいにしか思わず、
まともに読んでみるつもりも全くなかった。ところがその後、デタラメに
基づいて田中角栄無罪を主張するこの本を、彼の娘である田中眞紀子さん
が絶賛したり、定評のある政治記者の岩見隆夫さんがサンデー毎日誌上で
本書に触れて「これだけの疑惑が残るからには、さらなる究明がマスコミ
の責任である」などと書いたり、あるいは評論家の田原総一郎さんまでも
が月刊誌上で「田中角栄は無罪だった!」と題した連載(「諸君!」2月
号〜)をはじめたりするのを見て、もう黙っていられなくなった。

 確かに、私のような若造がメールマガジン上で何を言おうが、ベストセ
ラーに何度か名を連ねた「田中角栄の真実」の影響力に比べれば、吹けば
飛ぶほどのチッポケな力にしかならないかもしれない。それでも、世の中
で "センセイ" だの "識者" だのと呼ばれている人たちが平気な顔をして
ウソ・デタラメをならべたり、それを無批判に他のメディアで紹介したり
する姿を見るのは、どうしても我慢できないのである。

 岩見隆夫さんの文章はともかく、田原総一郎さんの連載については、言
いたいことが山ほどあるのだが、わざわざそのためだけにあのくだらない
月刊誌を買って読むのも馬鹿馬鹿しいので、これから先およそ5 回にわた
って、田中角栄無罪論の火付け役である「田中角栄の真実」を取り上げて、
そのデタラメぶりを解き明かしてゆきたい。

               ∴

 ロッキード事件といえば、もう30年近くも前、私もまだ生まれていない
ころの事件なので、ここで当時の新聞報道等を元に、あらためて事件の経
緯をまとめてみる。

 1972年8 月、全日空に対するエアバス売り込み競争に不安を抱いた丸紅
会長(肩書きはすべて当時)の桧山は、専務の伊藤、大久保と相談し、政
界工作として田中角栄総理大臣に5 億円の賄賂を送ることを決めた。大久
保はそのとき来日していたロッキード社副会長のコーチャンに賄賂の支払
いを承諾させる。8 月23日、桧山は田中邸を訪れ、田中に、全日空がロ社
のエアバス、トライスターを購入するよう運輸大臣を指揮するか、田中自
身が直接働きかけるなどの協力を要請する。そしてそのとき、成功の見返
りとして5 億円を提供する用意があることを田中に伝えた。

 その後10月30日、要請どおり全日空がトライスター購入を決定。田中は
丸紅に約束の5 億円を提供するよう要請してきた。これを受けて伊藤は、
ロ社東京事務所代表のクラッターのもとに米国の本社から送られてきた5 
億円を受け取り、田中の秘書である榎本に、4 回に分けて渡した・・・。

 これが、裁判所が認定した、ロッキード事件のあらましである。

               ∴

 さて、「田中角栄の真実」ではまず、田中角栄逮捕に対する批判からは
じまる。その前に田中角栄の逮捕に至るながれを見てみたい。

 1976年2 月4 日、アメリカ上院委員会多国籍企業小委員会(チャーチ委
員会)の公聴会で、ロッキード社の世界各国における政界工作の一部が明
かにされる。そのなかで日本に対しても「政府高官」数人に多額の賄賂で
売り込み工作をおこなったという証言が飛び出した。これを受けて検察庁
は、その「政府高官」が誰なのか調査をはじめ、次第にマスコミも、田中
角栄をはじめ佐藤孝行などの名前を挙げた報道を始めた。そんななか、つ
いに7 月27日、田中角栄が逮捕される。

 「田中角栄の真実」では、このときの逮捕容疑が収賄罪ではなく、外国
為替法違反容疑だったことに対して、まず疑問を投げかける。

|いわゆる別件逮捕である。つまり贈収賄事件として基礎的な内偵捜査も
|できず、その嫌疑が十分でないので、見込み逮捕をしたのである。
|(23ページ)

 また、外為法違反で逮捕したこと自体についても、こう反論する。

|確かに法律はあるが、為替管理が緩和され、現実に法律によって処罰も
|されていないような形式的な違反をとりあげて、強制捜査に利用したの
|である。(13ページ)

 つまり検察は、ロッキード事件について田中を逮捕するだけの十分な証
拠がないので、わざわざ外為法のような "死に法" を持ち出してきて、別
件逮捕をしたというのである。

 なにも知らずにこれだけ読むと、まるでオウム事件の直後に信者が次々
と微罪で別件逮捕されたのと同じような強引な捜査が、田中角栄に対して
もおこなわれていたかのように思うかもしれない。しかしこれは間違いで
ある。しかも本書は弁護士が書いたものであるにもかかわらず、上に引用
した合計わずか5 行たらずの文章のなかに、法律に関するデタラメが、な
んと2 ヶ所もあるのだ。

 まず一つ目は、田中角栄が外為法違反容疑で逮捕されたのは別件逮捕で
あるという点だ。確かに別件逮捕によって得られた自供は、そのプロセス
そのものが令状主義の空洞化を招くことや、拘置期間のいわば脱法的な延
長を可能にすることなどから、一般的にその証拠能力は認められていない。
[1] しかしこれは逮捕容疑(別件)と取り調べ内容(本件)とが著しく異
なる場合についてのことであり、この2 つが密接に関係している場合につ
いては、そもそも別件逮捕とはならないのである。たとえば、ある男が民
家の窓から出てくるところを警察官が発見し、不法侵入の容疑で逮捕した
とする。なぜ不法侵入したのかを追及しているうちに、家にあった現金を
盗んでいたことが判明して、窃盗容疑で再び逮捕する、といった場合であ
る。

 そもそも、別件逮捕かそうでないかを判断する基準については、「A 事
件について逮捕・拘留の必要があり、A 事件とB 事件とが社会的事実とし
て一連の密接な関連がある場合には、A 事件について逮捕・拘留中の被疑
者を同事件について取り調べるとともに、これに付随してB 事件について
取り調べても違法ではない」とする最高裁判決もある。[2]

 ロッキード事件について言えば、米国から違法な手段で送られてきた5
億円を、そうと知りながら田中角栄が受け取った行為そのものが外為法違
反とされたのである。もし仮に、

 (1) 米国から送られてきた5億円を受け取った。(外為法違反容疑)
 (2) 全日空の機種選定に関連して5億円を受け取った。(収賄容疑)

の2 つの行為のあいだに「社会的事実として一連の密接な関連」が認めら
れないのであれば、田中角栄は別件逮捕だ、違法な手段で自供を引き出さ
れた、などと主張することもできるだろう。しかし(1) と(2) のあいだに
は「一連の密接な関連がある」というのは明らかだろう。5 億円を受け取
ったという(1) の理由に当たるものが、ズバリ(2)そのものだからである。

 著者の木村氏は田中弁護団の一員として裁判に携わり、(1) と(2) の両
方の容疑についてよく調べたはずだ。それにもかかわらず、これは別件逮
捕である、つまりこの2 つの容疑の間に密接な関連を認めることができな
いとするその理由を、ぜひとも教えていただきたいものだ。

 二つ目のデタラメは、田中が外為法違反で逮捕されたことに対して、「
現実に法律によって処罰もされていないような形式的な違反をとりあげて、
強制捜査に利用した」と主張している点である。

 そもそも法律による処罰が多かろうが少なかろうが、どっちみち法律違
反には違いないやんッ!、なんてイチャモンをつけたくなるような一文だ
が、それはひとまずおくとしても、そもそもこの記述自体がとんでもない
間違いなのである。たとえば76年に開かれた参院ロッキード問題特別委員
会で当時の警察庁の担当者が次のように答弁しているのだ。

|昨年(1975年)警察が検挙送致いたしました外為法違反は534 件、240人
|でございます。そのうち身柄拘束したのは90件、34人、身柄不拘束は444
|件、206 人ということになっております。
|(76.8.4  参院ロッキード問題特別委員会)

同委員会ではまた、法務省からの追加説明として、次のような答弁がおこな
われている。

|先ほど警察庁からも昨年の処理状況を示されましたけれども、検察庁で
|この外為法違反で求公判している事例も、昭和40年ごろから申しますと52
|名から37名、25名と、場合によっちゃ一番少ないのは46年、47年で、5
|名ずつということでございますが、昨年では63名に求公判が上がってお
|るという状況でございます。

外為法違反が「現実に法律によって処罰もされていない形式的な違反」な
どというのは、とんでもないデタラメなのである。

 このように「ロッキード裁判の真実」という本は、ロッキード裁判を担
当した弁護士が書いた本であるにもかかわらず、たった20ページほど読ん
だだけでも、これだけのデタラメが出てくるのである。[3] 

 さすがにこれだけデタラメを並べるのも忍びなかったのだろうか、本の
「はじめに」の部分で、著者の木村喜助氏はこう書いている。

|(裁判後に)このような本を書くつもりは全くなかったため、メモ類な
|どは一切作っていない。(中略)そのため記憶が欠落している部分があ
|ろうかと思う。(Cページ)

 記憶の欠落にしては、あまりにもひどすぎる。

               ∴

【シリーズ・「田中角栄の真実」批判】
 今後の予定
  (2) 総理大臣の職務権限
  (3) 嘱託尋問調書の証拠能力
  (4) 清水ノートというアリバイ
  (5) ロッキード裁判とは何だったのか

【筆者注】
 [1] たとえば1967.4.2 東京地裁判決(東十条事件)など。
 [2] 1977.8.9 最高裁判決 (刑集9.4.663)
 [3] これだけでなく、嘱託尋問調書に関する15ページ以降の記述もデタ
   ラメだらけなのだが、これについては連載の三回目で取り上げる予
   定です。

【参考HP】

 岩見隆夫氏のコラム
   http://www.mainichi.co.jp/eye/iwami/sunday/2000/1008.html

 「田中角栄の真実」の紹介
   http://www.koubundou.co.jp/books/pages/kbn7618.html

 最高裁判所HP
   http://www.courts.go.jp/

 国会議事録検索システム
   http://kokkai.ndl.go.jp/

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■□■ [編集後記]

 本当ならば、いくらでも書きたいことがあります。たとえば森首相につ
いては5 つも6 つも書きたいテーマがあるし、教育改革国民会議をめぐる
話でもそうだし、その他にも、女性国際戦犯法廷、水俣病、教科書問題、
隠れキリシタンとオラショ、KSD 、電子投票制度、IT革命とインド映画、
過労死を見て見ぬふりする日本、まもなく始まる情報公開制度、知られざ
るアジア音楽、日の丸・君が代問題、子育てに冷たい社会、脳科学と哲学、
生命科学と生命倫理、人権思想の基礎、メディア・リテラシーの重要性、
働き過ぎる大人と少年問題の関係、なし崩し的にコトを進める日本共産党、
原発問題、アクサイチンをめぐる話、自由主義史観のデタラメぶり、、、

 と、書きたいテーマは山ほどあるのに(まぁ、多少ヘンなテーマも混
じってますが・・・)、時間に余裕がないのでいつもいつも、書くテーマ
の選択には悩んでいます。

 それにしても、もうちょっと、時間がほしいなぁ。。。

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 発行時期 :  隔週(毎月第2・第4水曜日)
 発行者  :  あがた あきら
 発行ID  :  まぐまぐ(0000054104)
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 HP    :  http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/7807/
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